恐怖のあまりフリーズしても同意があったとみなされてしまう?!被害者には理不尽すぎると指摘のある刑事法の性犯罪規定について、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」が取りまとめ報告書を公表しました。http://www.moj.go.jp/content/001348651.pdf

性犯罪刑法改正の経緯
2017年に性犯罪刑法が110年ぶりに改正されました。明治時代から平成へ時代、憲法まで変わっているのに、取り残されてきた性犯罪の条文。その問題は、性「暴力」のすべてが性「犯罪」として処罰されないこと。法律の不備が110年も放置されてきました。被害者は被害を受けただけでなく、勇気をもって法に訴えたのに、さらに法律によって理不尽な扱いを受け、苦しみを増すことになります。泣き寝入りをなくすこと、性暴力を適正に処罰するために、法改正は必須です。
2017年刑法改正のポイントは、(1)強姦罪→強制性交等罪
名称を変更、これまで被害者を女性に限っていたが性別を問わないことに
(2)厳罰化
強姦罪の法定刑の下限を懲役3年→5年に引き上げ
(3)非親告罪化
被害者の告訴がなくても起訴する事ができるように(これまでは被害者の告訴がないと起訴できない親告罪)
(4)監護者による子どもへの性的虐待を処罰
18歳未満の人に対して、親などの監督・保護する立場の人がわいせつな行為をした場合、暴行や脅迫がなくても処罰されることに
2017年刑法改正の残された課題
残された課題とは(1)衣類が破れるほど抵抗した跡がないと、加害者が、同意があったと思っても仕方ないと犯罪に問われない「暴行・脅迫要件」の見直し(2)監護者性交等罪の対象の拡大(3)いわゆる13歳の性交同意年齢の引き上げ(4)子どもの性犯罪に関する公訴時効の停止等(5)子どもの性犯罪の取り調べにおける司法面接手法について 等。深刻な課題が残され、3年後の見直し規定がおかれました。
3年後が今年の7月。これに向けて2018年4月に法務省内に「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」を設置し、2020年3月にとりまとめ報告書を公表しました。http://www.moj.go.jp/content/001318153.pdf 裁判例調査などを行っています。http://www.moj.go.jp/content/001318164.pdf
続いて2020年6月に「性犯罪に関する刑事法検討会」での検討が始まり、先週5月21日にとりまとめ報告書を公表。残された課題について検討しましたが、大半が改正すべき、する必要なしの両論併記になっています。これを受けて、法制審議会に諮問され、改正の是非が検討されます。
理不尽な無罪判決
相次ぐ性犯罪無罪判決をきっかけに、各地で性被害者当事者が声をあげフラワーデモが発生しました。https://www.flowerdemo.org/
一般社団法人 Spring 編集 「見直そう!刑法性犯罪 ~性被害当事者の視点から~ 」ダウンロード P5以降にビックリするような裁判例が載っています。あまりにひどい内容なので、HPの裁判概要を転記させていただきます。2019年3月現在の記述で、その後、控訴されて有罪判決が出ているものもあります。
<裁判概要> ・2019年3月12日、福岡地方裁判所久留米支部は、女性が飲食店で深酔いして抵抗できない状況にある中、性的暴行をし、準強姦罪に問われた福岡市内の会社役員男性に対し、「女性はテキーラなどを数回一気飲みさせられ、嘔吐しても眠り込んでおり、抵抗できない状態だった」と認定したが、女性が目を開けたり、何度か声を出したりしたことから、「女性が許容している、と被告が誤認してしまうような状況にあった」「女性が拒否できない状態であったことは認められるが、被告がそのことを認識していたと認められない」として、無罪と判断しました。→3月26日に検察側が控訴。
・2019年3月19日、静岡地方裁判所浜松支部は、女性に対する強制性交等致傷罪に問われたメキシコ人男性に対し、被告人の暴行が被害者の反応を著しく困難にする程度であったことは認めましたが、被害者が「頭が真っ白になった」などと供述したことから、女性が抵抗できなかったのは精神的な理由によると認定し、「被告からみて明らかにそれとわかる形での抵抗はなかった」として、無罪と判断しました。→検察は控訴せず無罪確定。
・2019年3月26日、名古屋地方裁判所岡崎支部は、中学2年から長女(19)への性的虐待を行っていた父親の2017年8月と9月の性交に対して、長女が「性交に同意していなかったこと」を認めましたが、性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を招くようなものでなく、従わざるを得ないような強い支配、従属関係にあったとまでは言い難いとし、「被害者が抗拒不能の状態だったと認定することはできない」として無罪と判断しました。→4月8日に検察側が控訴。
・2019年3月28日、12歳長女に対する約2年間にわたる、週3回の頻度で性行為を強要されていたと検察側が主張し強姦などで起訴された男性について、静岡地方裁判所は「唯一の直接証拠である被害者の証言は信用できない」と無罪としました。理由として、長女が児童相談所職員に毎週金曜日に性交されていると証言していたが、証人尋問では金曜日じゃなくなったなどと証言し、被害の頻度や曜日について供述が変遷しているので、検察官の主張は採用できないと結論づけました。→4月10日までに検察側が控訴。
潜在化する性暴力
そもそも性犯罪は、表に出にくいのが特徴です。性犯罪の厳罰化に対して、冤罪の危険性を指摘する意見がありますが、それ以前に、泣き寝入りが多いことのほうが問題の本質です。
【被害について相談しなかった理由 割合(%)】
内閣府「男女間における暴力に関する調査」平成29年12月実施
○恥ずかしくてだれにも言えなかったから 52.2
○自分さえがまんすれば,なんとかこのままやっていけると思ったから 28.3
○そのことについて思い出したくなかったから 22.8
○相談するほどのことではないと思ったから 20.7
○どこ(だれ)に相談してよいのかわからなかったから 19.6
○相談してもむだだと思ったから 19.6
法律がきちんと加害者を処罰してくれると信じられるようになれば、被害者は躊躇うことなく法に訴えることができるようになっていくと思います。早急に被害者に背負わせた重たい岩を取り除くべきです。