現在国会で審議中の刑事訴訟法の改正案は、性犯罪の被害者保護のため、氏名や住所を加害者に明示せず、刑事手続きを進められるようにするものです。

刑事手続きでは、逮捕状や起訴状に被害者の氏名や住所が記載され、その情報が加害者に伝わり、さらに危害を加えられるケースがあり、被害者を保護するため、手続きを変える必要性が指摘されていました。
性犯罪の被害者など、裁判官や検察官が保護する必要があると判断した場合、加害者には氏名や住所を記載しない逮捕状や起訴状を示すことを認め、個人を特定する情報を加害者に明らかにしないまま、逮捕や裁判などの刑事手続きを進められるようになります。
例えば、ネット上の匿名の関係で性犯罪の被害を受けて、警察、検察、裁判と刑事手続きを進めようとすると、加害者の防御権の観点から被害者の氏名と住所を告げなければなりません。匿名なのに、わざわざ加害者に被害者が何者であるかを明らかにするなんて、怖すぎます。復讐されたらどうしよう、家の近くをうろつかれたらどうしよう、ネット社会では何を書き込まれるかわかりません。裁判に至る経緯で、被害者は、このような実害や心配をさらに背負わなければならなくなります。それ故、甚大な被害を被ったにもかかわらず、不起訴にしてほしいと被害者から要望することもあります。これでは、被害者にとってはあんまりだろうということになり、以前から運用では氏名住所といった被害者の個人情報を加害者に告げずに刑事手続きを進めることも可能となっていたのを、法律上も明記することになりました。
刑事法は国家と刑を受ける人の関係を律する法律なので、被告人の防御権はしっかり担保されなければなりません。被害者が誰なのかを特定しなければ、被告人は自分を防御することはできません。これは譲れない刑事法の原則です。ですので、被告人の防御権が守られる範囲で、被害者の個人情報をも守る建付けになります。刑事法の中で被害者をどう位置付けるかは、これからの大きな課題です。
憲法31条「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」